東京高等裁判所 平成11年(行コ)147号 判決 1999年10月28日
控訴人 角田豊治
被控訴人 関東運輸局東京陸運支局長
代理人 齋藤紀子、榎本多喜男 ほか六名
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴人が当審で追加した訴えをいずれも却下する。
三 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対し平成一〇年一二月二四日付けでした原判決別紙物件目録記載の自動車に係る移転登録及び抹消登録の各申請の受理拒否処分を取り消す。
3 控訴人が現在において2記載の自動車の真正な所有者であることを確認する。
4 被控訴人が平成九年一月二一日付けでした2記載の自動車についての抹消登録回復処分が無効であることを確認する。
二 被控訴人
1 控訴棄却
2 控訴人が当審で追加した訴え(第一、一、3及び4の請求に係る訴え)につき、訴え却下
第二事案の概要
一 本件は、原判決別紙物件目録記載の自動車(本件自動車)の所有者であると主張する控訴人が、被控訴人に対し、本件自動車について、所有名義人である株式会社チーフカーズ(チーフカーズ)から控訴人への移転登録を申請するとともに当該移転登録後の抹消登録を申請したところ、右各申請の受理をいずれも拒否されたため、各申請の受理拒否処分の取消しを求めた事案である。原判決は、控訴人の請求を棄却したので、これに対して控訴人が不服を申し立てたものである。
なお、控訴人は、当審において、中間確認の訴えとして、控訴人が本件自動車の所有者であること及び被控訴人がした本件自動車についての抹消登録回復処分が無効であることの各確認を求める訴えを追加した。
二 当事者の主張は、原判決の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する。
第三当裁判所の判断
一 まず、控訴人が当審で追加した訴えの適法性について検討する。
中間確認の訴えは、本来の請求に対して先決関係にある法律関係の存否について、その訴訟手続内で確認を求める訴えである。これは、先決関係にある法律関係については、終局判決の理由中で判断がされても、そのままでは既判力を生じないことから、別訴による不経済や判断の不統一という不利益を避けるため、これを訴訟物として追加し、既判力を得られるようにしたものである。したがって、追加された訴えが中間確認の訴えとして許されるためには、当該訴えの目的となる法律関係が訴訟の進行の中で争われたものでなければならず、かつ、争いとなった法律関係の成立又は不成立が、本来の訴訟の目的たる権利又は法律関係に対し先決関係にあって、その判断が訴訟の勝敗に影響を与えることが必要である。
これを本件についてみると、本来の請求は移転登録及び抹消登録の各申請の受理拒否処分の取消しを求めるものであって、その訴訟物は受理拒否処分の違法性である。そして、処分の具体的な違法事由として争点となっているのは、控訴人のした申請について「申請が方式に適合しない」事由があるかどうか、すなわち、控訴人のした申請に法令に定める添付書面が添付されていたかどうかである(添付されていたにもかかわらず「申請が方式に適合しない」事由があるとして受理拒否処分がされれば、その処分は違法である。一方、添付されていなければ「申請が方式に適合しない」としてされた受理拒否処分は適法である。)。したがって、控訴人が本件自動車の所有者であるかどうかや本件自動車についての抹消登録回復処分が無効であるかどうかは、本来の訴訟の目的たる権利又は法律関係に対し先決関係にあるものとはいえない。
そうすると控訴人が本件自動車の所有者であること及び被控訴人がした本件自動車についての抹消登録回復処分が無効であることの各確認を求める訴えは、本来の訴訟に対して中間確認の訴えとなる要件を欠き、不適合といわざるを得ない。なお、控訴人が本件自動車の所有者であることの確認を求める訴えは民事訴訟であるから、本来の訴訟と同種の訴訟手続であるとの要件を欠き、この点でも不適法である。
二 次に、本来の請求についてみる。
当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次に記載するほか、原判決の理由記載と同一であるからこれを引用する。
自動車の登録手続を定める自動車登録令(登録令)一四条によれば、登録の申請をする者は、申請書に同項各号の書面を添えて提出しなければならないとされており、同項一号には「登録の原因を証する書面」が、三号には「代理人により登録の申請をするときは、その権限を証する書面」が挙げられている。また、登録令一六条一項によれば、申請書には、やむを得ない場合を除き、同項に定める印鑑証明書を添付しなければならないとされている。
右の「登録の原因を証する書面」とは、必ずしも譲渡証明書(道路運送車両法三三条)に限られるものではない。譲渡証明書は、自動車の登録の申請に際して、自動車の所有権の有無の確認を容易に行うため設けられた制度であるが、そうであるからといって、自動車の所有権を有することを他の方法で証明することを許さないものではない。しかし、登録の申請の審査は、申請書の記載及び添付書面のみを資料として行われる書面審査であるから、登録の原因を証する書面も、所有権を有することを一義的に明らかにするものでなければならない。
本件において、控訴人は、移転登録申請書に特別売却調書を添付して提出しており、控訴人は、これが登録の原因を証する書面に当たると主張する。
しかし、<証拠略>によれば、控訴人が提出した特別売却調書には、動産競売と本件自動車の所有名義人であるチーフカーズとのつながりを示す記載は何らみられないことが認められる(<証拠略>は、特別売却調書の一部であるが、<証拠略>によれば、特別売却調書全体を提出したとしても、同調書の当事者目録に債務者安里武一の記載がみられるだけである。)。そうすると、特別売却調書では、控訴人が代表者を務める有限会社プラトンがチーフカーズから本件自動車を承継取得したことを証明するものとは認められず、また、有限会社プラトンが本件自動車を即時取得した余地があるとしても、その要件をすべて証明しているとも認められない。したがって、特別売却調書では、登録の原因を証する書面として十分ではない。
さらに、移転登録申請書には、登録令一四条一項三号の書面(チーフカーズを代理する権限を証する書面)及び登録令一六条一項の印鑑証明書も添付されていない。
右によれば、控訴人の移転登録申請は、添付すべき書面が欠けており、これを、「申請が方式に適合しない」として受理を拒否した処分に違法な点はない。また、移転登録を前提とする抹消登録申請を、「申請が方式に適合しない」として受理を拒否した処分にも違法な点はない。
結局、控訴人はチーフカーズを相手方とする勝訴判決(おそらく相手方は口頭弁論に欠席し、迅速に判決を得られるものと考えられる。)を取得して、移転登録の申請をするほかないものといわざるを得ない。
三 したがって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。また、控訴人が当審で追加した訴えは、中間確認の訴えとして不適法であるから、これを却下すべきである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 淺生重機 菊池洋一 江口とし子)